泥染めと大島紬


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奄美伝統の染色方法「泥染め」

奄美を発祥とする大島紬の歴史は古く、その起源は約1300年以前にさかのぼり、わが国染色織物の最も古い伝統を持っているといわれてます。大島紬は奄美地域の伝統工芸技術であり、固有の自然資源を用いた「泥染め」による染色技法と、世界で最も精巧で緻密な手織技術による特産物として知られています。奄美固有の自然環境や歴史、伝統文化を色濃く反映し、風土と工芸技術が結晶した他に類を見ない高度な伝統工芸なのです。

本場奄美大島紬を最も特徴づける要素の一つ「泥染め」は、テーチ木染めとセットとなった染色方法です。テーチ木とは車輪梅の奄美方言で、バラ科に属する常緑低木のことです。亜熱帯地方の山野・海辺に自生しています。基本的な工程はテーチ木を細砕し、これを煮出した煎液で数十回揉み込み染色を行い、自然の泥田で数回媒染を行います。この工程をワンセットとし、数回繰り返すことで、深みのある黒褐色が生み出されます。テーチ木煎液のカテコールタンニン色素と少量のカテキンが、奄美の泥田に含まれる鉄塩類と化合し、糸の表面に不溶性の化合物を作り出すことで独特の渋みのある黒色に染まるのです。

奄美の泥は古代地層に由来し、粒子が丸く細いため、紬の糸を傷つけずに染めることができます。また、テーチ木煎液と泥を繰り返し揉み込むことで、糸が柔らかくしなやかになり、泥染めの着物はシワになりにくく、軽くて暖かく着崩れせず、火気や汚れに強く、静電気も起きにくくなるなど、数多くの優れた特性を持っています。しかし、洋装化の普及と和装の衰退など生活スタイルの変化から需要を失い、また離島という立地条件から過疎・高齢化が著しく、後継者の不在等、地域の伝統産業として存亡の危機にあります。特に泥染技術者は現在10名ほどしかおらず、将来への技術継承が危ぶまれています。